重回帰分析
概要
本ページ内では、重回帰分析を終着点とした一連の分析の手順についてまとめます。重回帰分析は、1つの従属変数に対して複数の独立変数が及ぼす効果を知るための分析手法です。ただ、その分析をするためには、通常、以下のような流れを踏む必要があります。
まず、本コンテンツでは分析にHADを用いますので、それをダウンロードして使える状態にする必要があります(1:分析ソフトとデータの準備)。次に、心理学の研究では、多くの場合、複数の項目を使って1つの概念を測定することが行われます。そうした場合に、複数の項目を本当に1つの変数として扱っていいのかをチェックする必要があります(2:変数の合成)。さらに、重回帰分析の前に、それぞれの変数の平均値や標準偏差、相関係数をチェックし、それぞれの変数の特徴を記述します(3:記述統計)。ここまでが完了してようやく一番したい分析を実行することができます(4:重回帰分析の実行)。分析が終わったら、心理学論文の書き方に沿って、表をまとめ(5:表の作成)、文章で記述してください(6:論文の記述)。
1.分析ソフトとデータの準備
まず分析に用いるHADを使える状態にしてください。これがまだできていない方はこちらのページから準備をしてください。
次に、分析に用いるデータを準備し、HADに入力してください。Qualtricsで収集したデータを使われる方はこちらのページでやり方を確認してください。
ここでは刑事司法に対する態度(これについてはこちらのページをご参照ください)と自由意志の関連を検討したデータを分析に用います。このデータはこちらからダウンロードできます。ご自身のデータがある方はそれを使ってください。
2.変数の合成
多くの心理学的な研究では、1つの構成概念を測定するために複数の項目を用意するといったことが行われます。今回のデータでも、刑事司法に対する態度(4因子)と自由意志信念(3因子)はそれぞれ複数の項目で測定されています。
ただ、複数の項目が1つの構成概念をきちんと測定できているかは確認する必要があります。そのために用いられる統計的な手法は、①因子分析と、②信頼性係数(α係数)の確認です。どちらを使うかは先行研究で因子構造が確認されているかどうかによります。より端的には、自分で作成した尺度(項目)である場合や先行研究の尺度を変更した場合には因子分析を行う必要があります。これに対して、先行研究で用いられている尺度をそのまま使っている場合には因子分析をする必要はなく、信頼性係数を求めれば十分です。ご自身の計画がどちらに当てはまるかを確認してください。
なお、分析・判断は変数ごとに行う必要があります。たとえば、変数Aは先行研究のものをそのまま使っているが、変数Bは自分で新たに作成したものである場合には、変数Aは信頼性係数を求めるだけで足りますが、変数Bについては因子分析を行う必要があります。変数ごとに個別に判断してください。
ここで使われている変数(刑事司法に対する態度と自由意志信念)は実際には先行研究で因子構造が確認されています(つまり、何個の因子に分かれるかはすでに示されています)。ですので、本来であれば因子分析をする必要はありませんが、あくまで例として因子分析も行っています。自分のデータを使って分析する方はご注意ください。
因子分析
まずデータを確認します。今回のデータでは、厳罰傾向を測定する項目は22個あり、cj_1からcj_5までの列に入力されています。因子分析ではこれらのデータを使いますので、これらをコピーして、「id」の横に貼り付けてください。
移動ができたら、「因子分析」にチェックを入れてください。
因子分析の前に、因子数を決める必要があります。「スクリープロット」を左クリックしてください。
「Scree」というシートが新たに作成されれば成功です。
このシートには、固有値や累積寄与、対角SMCの値などが表示されています。これらの数値から因子数を決定する手法には色々なものがありますが、初学者の方にとっては固有値で色が付いている因子数を選択するのが最も楽かと思います。ここでは「Factor1」に色が付いていますので、1因子構造が妥当であると判断できます。
もう一度「モデリング」のシートに戻り、「因子数」に「1」を入力してください(必ず半角で入力してください)。
「分析実行」を左クリックしてください。
「Factor」というシートが新たに作成されれば成功です。
下の画像の赤で囲まれた部分が因子負荷量です。すべての因子負荷量が.400以上であるため、この因子構造で確定できます。
以上が1因子解の最もシンプルな因子分析ですが、因子が複数ある場合や因子負荷量が低い項目がある場合にはもう少し工夫をする必要があります。そのような場合にはこちらをご参照ください。
信頼性係数の算出
上記の通り、先行研究ですでに因子構造が分かっている場合には、信頼性係数を求めるだけで足ります。
まず信頼性係数を求めたい項目を「使用変数」にコピペします。ここでは厳罰傾向を測定する5つの項目の信頼性係数を求めたいという想定で、5項目をコピペします。
左上の「分析」を左クリックしてください。
表示されたポップアップ画面で、右上の方にある「項目分析(α係数)」にチェックを入れます。
右下の「OK」を左クリックしてください。
「Item」というシートが新たに作成されれば成功です。
信頼性係数は上の方の「α係数」の横に表示されています。ここでは.864が厳罰傾向のα係数です。一般にα係数は.70以上であれば問題ないとされますので、ここでは特に問題はなさそうですので先に進みます。
なお、尺度に逆転項目がある場合には、少し下の「逆転後のα」の値を使う必要があります(ここでは逆転項目は入っていませんので、上の値と下の値は同じになっています)。
合成変数の作成
ここまでで厳罰傾向を測定する5つの項目を1つの変数として扱っていいことが分かりましたので、次はこれらの5項目の平均値を算出し、それを厳罰傾向の値とします。合成変数の作成にはエクセルのaverage関数を使うやり方もありますが(関数を使ったことがある方にとってはおそらくそちらの方が通常楽です)、ここではHADの機能を使ったやり方を解説します。
まず合成したい項目を「使用変数」にコピペします(上と同じです)。
「変数の作成」を左クリックしてください。
表示されたポップアップ画面で、「平均得点を算出」にチェックを入れてください。
「OK」を左クリックします。
「Score」というシートが新たに作成されれば成功です。
「Mean」の列には「使用変数」に入力した項目の平均値が入っています。ここでは5つの項目を入力しましたので、その5つの項目の平均値が計算されています。
「Mean」だと何の平均値が分からないので名前を「厳罰傾向」に変えておきます。
「厳罰傾向」の列全体を「データ」のシートに移す必要があるので、列全体をコピーします。
「データ」のシートに移動して、「ID」の右に貼り付けます。3列目で右クリックをし、「コピーしたセルの挿入」で「ID」の右に挿入できます。
下の画像のようになれば完成です。
以上の作業を変数(因子)の数だけ繰り返してください。例として用いているデータに含まれる自由意志信念は3因子構造ですので、3回処理を繰り返す必要があります。「fw_1」から「fw_4」が「他行為可能性」因子、「fw_5」から「fw_8」が「行為者性」因子、「fw_9」から「fw_12」が「制約からの自由」因子です。作業を完了すると以下の画像のようになります。
3.記述統計
ここまでで分析に使用する合成変数は作成されましたが、重回帰分析の前には他にもしないといけないことがあります。重回帰分析と一緒によく行われる分析は、①記述統計(平均値、標準偏差)の算出と、②相関分析です。①変数の平均値や標準偏差はデータに偏り・歪みがないかを把握するために必要な情報です。また②については、重回帰分析では独立変数間の相関が統制されます。そのため、独立した独立変数の効果は分かりません。この点を補うために、重回帰分析に先立ち、相関分析で独立した効果を把握することが行われます。①と②の情報はメタ分析の際にも必要になりますので、特段の事情がない限り論文には含めておくべきでしょう。
平均値と標準偏差
「データ」のシートで「データ読み込み」をクリックしたうえで、平均値と標準偏差を求めたい変数を「使用変数」の横に貼り付けます。
「分析」を左クリックしてください。
表示されたポップアップ画面で、左上の方にある「要約統計量」にチェックを入れてください。
右下にある「OK」を左クリックしてください。
「Summary」というシートが新たに作成されれば成功です。
「平均値」と「標準偏差」の列にそれぞれの値が表示されています。たとえばここでは厳罰傾向の平均値は6.327、標準偏差は0.994であることが分かります。
相関分析
「分析」を左クリックしてください。
右上にある「相関分析」にチェックを入れてください。
右下にある「OK」を左クリックしてください。
「Corr_test」というシートが新たに作成されれば成功です。
一番上の部分では相関係数が表示されています。たとえば、厳罰傾向と他行為可能性の相関係数は.352であることが分かります。横についている「**」(アスタリスクと読みます)は、有意水準を示しており、「**」であれば「1%水準で有意」、「*」であれば「5%水準で有意」、「†」(ダガーと読みます)であれば「10%水準で有意」であることをそれぞれ意味します。
正確なp値を知りたい場合には少し下にあるもう1つの表を見ます。ここを見ると、たとえば厳罰傾向と他行為可能性の相関のp値は「.000」ですので「1%水準で有意」であることが分かります。
4.重回帰分析
ここまでの処理を行ってようやく重回帰分析を行うことができます。
まず重回帰分析に投入する変数を「使用変数」の横にコピペします。ここでは厳罰傾向を従属変数、自由意志信念の3つの因子(他行為可能性、行為者性、制約からの自由)を独立変数としますので、これらの4つの変数をコピペします(相関分析から続けて分析している場合には変更する必要はありません)。
「回帰分析」にチェックを入れてください。
「目的変数」には従属変数を、「モデル」には独立変数を入れます。ここでは「目的変数」には厳罰傾向を、「モデル」には自由意志信念の3つの因子(他行為可能性、行為者性、制約からの自由)を入れてください。
「分析実行」を左クリックしてください。。
「Reg」というシートが新たに作成されれば成功です。
まず少し下にある「標準化係数」の表を見てください。この表の赤で囲った値は「標準化偏回帰係数」(論文ではよく「β」と表記されます)と有意性です。値の範囲は-1から1で、読み方は相関係数を同じです。有意性の読み方(「**」など)の読み方も相関係数と同じです。ここではたとえば、厳罰傾向と行為者性の値は.341となっており、「**」が付いています。したがって、厳罰傾向と行為者性は正比例の関係にある(つまり、自由意志を信じる人ほど犯罪者に対して厳しい刑罰を求める」傾向があり、この関係性は1%水準で有意であると読み取ることができます。
少し上にある「回帰係数」の表には「偏回帰係数」(論文ではよく「Bと表記されます)や「標準誤差」(「SE」と表記されます)、正確なp値などが表記されています。
5.表の作成
ここまでで分析が終わりましたので、論文上で報告するための表を作成します。ここまでの分析をまとめたHADのファイルはこちらから、エクセルの表の見本はこちらからダウンロードできます。
ここまで行ってきたような分析の結果を報告する際には、因子分析の結果(Table 1)、記述統計と相関係数(Table 2)、重回帰分析(Table 3)を作成する必要がありそうです。
表の効率的な作り方は人それぞれだと思いますので、見本を参考にしながらご自身で作成してください。以下ではHADの出力と表の対応のみを記載いたします。
因子分析
《表》
《HADの出力》
記述統計と相関係数
《表》
《HADの出力》
重回帰分析
《表》
《HADの出力》
6.論文の記述
表が作成できたら最後に文章を記述します。以下はここまでの分析の結果の書き方の一例ですが、絶対的に正しい正解はありませんので、他の論文も参考にしながら自分なりの書き方を見つけてください。
変数の合成:因子分析の場合
厳罰傾向を測定する5項目について探索的因子分析を行った。まず固有値の減衰状況を確認したところ,3.28, 0.62, 0.46, 0.34, 0.30と,明確に1因子構造が示唆される結果であったため,1因子解を指定して分析を行った。その結果,Table 1に示される通り,すべての項目の因子負荷量は.40以上であった。そのため,全項目の平均値を算出し,以後の分析に使用した。
変数の合成:信頼性係数の場合
厳罰傾向を測定する5項目についてCronbachのα係数を算出したところ,その値はα = .86であり,十分な内的一貫性が確認された。そのため,全項目の平均値を算出し,以後の分析に使用した。
記述統計と相関係数
作成された変数を用いて、相関係数と記述統計を算出した。Table 2に示される通り,厳罰傾向は自由意志信念の各因子と有意な相関を示した。具体的には,厳罰傾向は,他行為可能性(r = .35, p < .01),行為者性(r = .44, p < .01),制約からの自由(r = .24, p < .01)の各因子と正の関連を示し,人は常に他の行為をし得る可能性があること(他行為可能性),人は自分の意志に基づいて行動をしていること(行為者性),人の行動は外部の影響によって決定されるわけではないこと(制約からの自由)を信じている人ほど犯罪者に対して厳しい刑罰を求めることが示唆された。
重回帰分析
最後に,厳罰傾向を従属変数,自由意志信念の3因子(他行為可能性,行為者性,制約からの自由)を独立変数とした重回帰分析を行った。Table 3に示される通り,行為者性(β = .08, p < .01, 95%CI [.15, .53])および制約からの自由(β = .13, p = .05, 95%CI [.00, .25])の効果が有意であった。この結果から,自由意志信念の他変数の効果を統制した場合には,人は自分の意志に基づいて行動をしていること(行為者性),人の行動は外部の影響によって決定されるわけではないこと(制約からの自由)を信じている人ほど犯罪者に対して厳しい刑罰を求めることが示唆された。
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